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Japan

248回目:SDGs 山形から

日経新聞より

山形県鶴岡市。田畑の広がる自然豊かな地域で、持続可能な未来につながる新素材の開発に取り組む起業家がいる。Spiber(スパイバー)の関山和秀(37)だ。クモの糸をヒントに、化学繊維の誕生以来の繊維革命をめざす。

2019年12月。スポーツ用品のゴールドウィンと共同開発したアウトドアジャケット「ムーン・パーカ」が50着限定で発売された。素材にスパイバーの「ブリュード・プロテイン」を使っている。開発着手から4年。耐久性や安定性の面で難易度が高いアウトドアジャケットでの成功は関山にとって新たな自信につながった。

関山氏は「ムーン・パーカ」の商品化で自信を得た

世界のアパレルブランドが注目

ブリュード・プロテインは人工たんぱく質でできた繊維だ。スパイバーは多様な糸を自らつくり出すクモの糸の遺伝子の分析を通じ、様々な性質を持つ人工たんぱく質の糸をつくる技術を持っている。

その糸からつくり出したブリュード・プロテインは、化学繊維のように石油を使わず毛皮のように動物の犠牲も必要ない。環境や倫理に配慮した「エシカルファッション」を意識する世界中のアパレルブランドから問い合わせが絶えない。「サカイ」や「ユイマナカザト」などのコレクションにも使われた。

ユイマナカザトのコレクションにもスパイバーの人工たんぱく質繊維が使われた

21年にはタイ工場が稼働する予定。生産量は現在の年数トンから数百トンに拡大する。体制が整えば、本格的に受注を始める。

資源の奪い合いをなくしたい

「資源の奪い合いをなくしたい」。高校時代からの夢が、実現へと大きく動いている。

関山の根底にあるのは「どうせ生きるなら、社会に価値をもたらすために時間を使おう」という思いだ。それが資源問題に向かうきっかけとなったのが高校1年の時に授業で見たドキュメンタリーだ。内戦状態にあったルワンダで、女性が赤ちゃんを抱いてひざまずいて命乞いしているところに男性がオノを振り下ろすシーン。あまりにも悲惨な映像が、目に焼き付いた。

関山が資源問題に目を向けたのは高校時代

紛争や戦争について調べるうち、争いの本質は「限られた資源の取り合いではないか」と考えるに至った。今後、新興国の人口が増えていけば、どう考えても今の資源ではまかなえない。となれば自分の子どもや孫が戦争に巻き込まれるかもしれない。ただ、実際に何をすれば解決できるか、そのときはわからなかった。

関山(右端)は冨田(左端)を追って慶大に進学した

進むべき道が見えてきたのが高校3年の春。慶応大環境情報学部教授の冨田勝との出会いだ。大学進学の説明会で冨田がITとバイオを融合したテクノロジーについて熱く語るのを聞き、「これだ!」と感じた。説明会後にカバン持ちを申し出て駅まで冨田に付いていったほどだ。

「ゴミじゃないか」

「絶対に冨田研に入りたい」。成績の悪かった関山は猛勉強して慶大環境情報学部に進学。念願の冨田研究室に入り、慶大の先端生命科学研究所で研究を始めた。転機が訪れたのは大学4年の時。「クモの糸ってすごいらしいよ」。研究室の合宿で仲間と飲みながら出た一言だった。

翌朝、大学に戻ってクモに関する文献を取り寄せた。この頑丈で伸縮性の高い糸から、すごい繊維がつくれるんじゃないか――。こんな思いがわき上がってきた。

繊維にするには大量の糸が必要になるが、クモ自体を量産するのは難しい。それで微生物の発酵によって人工たんぱく質を生み、培養して糸の原料を増やす手法を選んだ。道筋は見えたものの、なかなか前に進まなかった。ようやく修士過程の修了間近にほんの数ミリグラムの「繊維のようなもの」ができたが、ほとんどの先生に「ゴミじゃないか」とまで言われた。

関山は反対する両親や教授を説得して起業した

休学してすぐ起業

2007年に博士課程に入ってすぐに休学して起業する。親が経営者だったため、もともと「会社とは経営するもの」という感覚があった。「もっと技術を確立してからにしては」と教授にも両親にも反対されたが「確度が足りないので起業できないという心構えだと、結局いつまでも起業できない」と周囲を説得した。

当初は資金もなく、アルバイトしながら助成金の獲得に奔走。運よく800万円の助成金を得て、研究できるようになった。09年頃、人工たんぱく質がようやく糸になり、ボビンに巻き取れるようになった。09年に初めて第三者割当増資でベンチャーキャピタル(VC)から資金を調達。13年にはドレスの制作に成功する。「製品にして社会に見せることは重要。実用化できるかもと考えて支援してくれる人が増えた」

量産化に向けて、大企業との共同開発も増えた。投資家や金融機関の期待も高まり、増資・融資などを含め累計調達額は300億円を超えた。

スパイバーの人工たんぱく質繊維は様々な用途が見込まれている

将来は繊維需要の10~20%満たす

今は古巣の慶大先端生命科学研の隣に本社を構える。200人を超える従業員のうち、1割は外国人、3割は地元の山形出身者だ。

最新の登記簿から推定した企業価値は1000億円を超える。すでにユニコーン企業だ。とはいえ18年12月期の売上高に当たる営業収益が2億円強なのに対し、先行投資がかさんで最終損益は25億円超の赤字。豊富な調達資金があるとはいえ、楽ではない。化学繊維を超えるうえで最大の壁であるコストという課題も残るが、関山は「量産を機に収益化へ向かう」と強気だ。

自動車の内装、医療用材料、建築……。製品化はアパレルが先行するが、使い道として想定するのはあらゆる産業だ。「地球環境によい素材を作り続け、将来は繊維需要の10~20%を満たしたい」。関山のめざす未来は地球規模だ。

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