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備忘録

Indianlife

859回目:インドのヤシガラ活性炭

2023年07月04日の備忘録

ヤシガラ活性炭の旅

弊社では昔から化学貿易部署の商材の一つとして「活性炭」を扱っている。今回は、その「活性炭」の供給国でもあるインドにて、日本からの出張者を迎え、インドをまわった時の話。これは、2023年5月のこと。しばらく時間が経ってしまったが、その時に考えたことを記録に残しておく。

活性炭とは?

そもそも活性炭と言われても、「何すかそれ?」と思う人も多いだろう。「活性炭」とは、簡単にいうと、

「とある物質をめちゃくちゃ吸着させる魔法の炭」

とでも言えばいいだろうか。例えば、めっちゃ汚い水をろ過する時に、活性炭をフィルターにぶっ込んでろ過をすると、汚い物質が活性炭に吸着されて、そこを通った液体が綺麗になって出てくる感じ。

イメージでは、フィルターコーヒーだ。コーヒーの場合、透明な水を、コーヒーの粉が混じったフィルターを通すことで、コーヒーのエキスが水に混ざりコーヒーが抽出される。活性炭を使ってろ過をするということは、フィルターコーヒーと逆のことが起きる。汚い水を上からかけて、中にある活性炭が汚い物質を吸着させ、透明な水が出てくる感じのイメージだ。この活性炭は、汚い水だけで無く、「気体」「ガス」なども吸収する。要は、サイズの小さい「粒子」を吸着させる効果を持っている。使用用途としては「浄水フィルター」だけで無く、「金鉱山での金の回収」や「脱臭剤」など様々な用途に使用される。

てか、何で吸着できるの?

では、なんで、こんな”たかだか炭”が「脱臭剤」や「金の回収」で使われるスーパーアイテムになるのか。

それは、「炭」に隠された驚くべき機能にある。

「炭」の作り方は、「不完全燃焼」を利用した焼き方で作られる。原料となる「木」「ヤシの殻」などを集めてきて、そいつらを地面や釜にぶちこんで「不完全燃焼」させる。

不完全燃焼ってのは、「酸素をあえて少なくし、じわじわと高温で燃やす燃焼方法」だ。

釜や地面の中で燃えているから、酸素が十分に入らず不完全燃焼が起こる。すると、「木」や「ヤシの殻」は、不完全燃焼により、「炭素”以外”」の物質が燃えて、それが煙となって出ていく。そして、結果的に全部燃えずに「炭」だけが残る。これが、「炭化」だ。その残った炭には特徴がある。それは、表面にポツポツ穴が空いているって事だ。

そこから、「活性炭」を作るために、バカでかい「キルン」という釜で、さらにジンワリ焼いて、「炭」をパワーアップさせるわけだが、「パワーアップ」とはどういうことかというと、それは、

「すでに開き始めた穴を、更に、細かく穴を作りまくるイメージ」

だ。この穴のサイズを調整することによって、「吸収出来る物質の粒子のサイズ」を分ける事が出来き、吸着させたいターゲットにより活性炭を使い分ける事ができる。

活性炭の歴史

活性炭の発明は20世紀の始めごろ。工業生産により急速に普及するきっかけを作ったのは軍用目的だった。第一次世界大戦中、ドイツ軍が連合軍を倒すべく、戦線の前線にボンベから塩素ガスを放出した。これは、人類で初の化学兵器を使用した戦法だった。この塩素ガスは、人が大量に吸い込むと中毒症状に陥り呼吸不全となる。重篤な場合は死に至る。そこで、ドイツに対抗する連合軍は、このガス攻撃の対策として、フィルターに活性炭を仕込ませた「ガスマスク」を用いて防御したらしい。それ以降、活性炭は急速に色々な用途に向けて製造が広がった。

インドはヤシガラ活性炭の産地

インドは活性炭、特にヤシの殻を燃やして作る「ヤシ殻活性炭」の産地である。基本、ココナッツが生えている常夏のエリアには、基本ヤシ殻があると思っていい。インドの他にも、フィリピンや、インドネシアなどだ。ヤシの木があれば、そこにヤシ殻活性炭の産地がある。

これは、SDGs?

本来、ヤシ殻は元々”廃棄物”だ。

当時、人間生活の中で重要なのは、ヤシの中の「実」や「果汁」等の食料としての用途であって、中を食い終わったら、無論その皮は捨てられる。その捨てられるものが、実は形を変え、「金鉱山の金の回収」にも使われる「スーパーアイテム」に変貌を遂げるなんて・・・・。頑張ってゴミを集めている現地の農家の人たちは知る由もないだろう。これが、先進国の搾取ってやつだろうか・・。

下記が、活性炭原料の一番最初の工程「チャコールプラント」だ。

ここから、「チャコール」という「炭」を使って、そいつを活性炭工場に輸送し、そこで「炭」から「活性炭」へパワーアップさせる。マジで初めてチャコールプラントのヤシ殻の山を見たが、ハッキリ言ってココナッツ食った後のゴミの山に近い。

ただ、これが「魔法の粉」に化ける。。

「廃棄物」から「魔法の粉」。これは、明らかに環境配慮型の化学商材と言っていい。最終製品はこんな感じの粒となる。

一方で問題も

SDGsで環境配慮型の商材と思いきや、その影には問題も垣間見える。

それは、炭を作っている場所からはものすごい煙が発生する為、作る場所が限られるという事。話を聞けば、ヤシ殻を燃やすエリアは当然人里離れたところに設置される。何故なら、煙が多く周辺農家や住民から苦情が来るからだ。今回訪問した場所には、ヤシ殻を燃やしている釜の横には、マンゴー畑が広がってて、あまり燃やしすぎると農家からの苦情も来るらしい。

更に、「炭」を作った後に、活性炭工場へ「炭」が輸送され、「活性炭」を作るために、デカイ釜で「炭」を更に焼く訳だが、その工場内は「灼熱地獄」。ずっとその場にいると死にそうになる程熱い。なので、労働環境という点からは少々疑問が残る産業でもあると察した。

下記写真は、チャコールプラントで「炭」を作って、そこから更に「炭」をパワーアップさせる「キルン」という釜。この周辺は、めちゃくちゃ暑い。マジでこの周りを歩くだけで体力の消費が凄まじい。

総じて

今回、日本からの出張者を迎え、「インド活性炭の旅」を実行した。そこで見えたサプライチェーンの全体像。私としては、「良い部分」「疑問が残る部分」の双方を垣間見る事が出来、非常に有意義な機会となった。「活性炭」は今後需要が増えてくる可能性が高い。何故なら、「世界の人口の増加」と「産業の発展」により、水自体の使用が増える一方で、「綺麗な水」の価値と使用量が上がるからだ。だから、活性炭を使って、「水をリサイクル」する事が今後一層着目される。今後もこの事業には、注視していきたいところだ。下記は、日本からの出張者のI氏。さすが、「炭」を扱ってるだけあって、腹黒そうな顔してるぜ・・・笑

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