私は今ムンバイの空港で、Durgapur 行きのフライトを待っている。
今回、私が向かう先の『Durugapur』で待ち受けているのは、私の部下のアルン君だ。彼は、現在ムンバイから一度実家に戻り、生まれたばかりの子供と年越し中。ムンバイから一旦戻らせたのも、本来10月にあった『ディワリ』というインドの正月は、ムンバイで仕事をしてもらったので、現在一旦実家に帰らせた。
『スタッフを実家に戻す』という選択は、上司の私としては非常に迷う部分があった。なぜなら、日本で働いている際には、『一旦実家に帰って、そこから仕事します』なんて部下に言われた上司は、『お前何言ってんの?』と憤慨するのは間違いない。現在、コロナ禍というのもあり、リモートワークで仕事ができる環境下にあるものの、スタッフを実家に帰らせるという決断は、正直、何が正解なのかもわからなかった。
しかし、インドに長年住んでいる駐在員や、インドで成功した過去の日本人の本などをここにきて何冊か読みあさり、インドの文化を勉強しアドバイスを頂いたことを参考にすると、インド人にとって、『正月(つまり、10月のディワリ)に家族を一緒に過ごせない』というのは、インド人にとっては考えられないことで、それはいわば、一般的には、『仕事より大事なもの』であるようだ。アルンくんは、私に『ディワリはムンバイで仕事します!』と、ずっと私に言っていたので、私もそれがどれほどインド人にとって大きな決断をしているかを認識できなかった気がする。
とはいえ、ここは日系企業。インドにある日本企業、つまり、日本を中心に仕事をしている『外資系企業』なわけで、私の口からそれを安易と斡旋するわけにも行かない。インドの文化と日本の文化をどっちも理解し、そしてかれらに理解させるのが、いわば私の仕事である。ただ、少なくても私自身が、インドの文化をちゃんと理解するってことがめちゃくちゃ大事であると実感するこの頃である。
ファミリーファンクション
インドに住んでいると、『ファンクション』という言葉をよく耳にする。日本でいう結婚の儀式や、端午の節句、七五三、などの伝統行事のようなもの。通称『ファミリーファンクション』と呼ぶ。
話が逸れたが、今回、私がアルンくんの実家に向かう理由は、彼の『ファミリーファンクション』に招待されているからだ。彼は、私を含めた日本のボスたちを、彼の結婚式に呼びたがっていたが、昨年のコロナ禍でその夢が叶わず、その代わりとして、どうしても今回の『ファミリーファンクション』に来てほしいと思っているわけだ。なので、日本のボスたち、インド店を代表して私が行く。何が行われるかはまだよくわからないのだが、どうやら『生まれたばかりの子供が、初めて米を食べる儀式』とのこと。話を聞けば、700人ぐらいのゲストを呼んでいるそうだが、コロナが広がり始め、規模の縮小をせざるを得ず、家族と親戚のみの行事となるらしい。この『ファミリーファンクション』とやらが、どれだけインド人にとって大事なものかは未知数。ただ、私が行くことを知った同じチームのメンバーからは、『これを持っていってください!私たちからの気持ちです!』と沢山のギフトを託されたので、やはりインド人にとっては大事な行事っぽい。
インドは「見栄」の文化
インドは「見栄」を重んじる文化で、それは時として「お金」より重要視される。彼の給料改定の交渉を12月に完了した後、彼は私に『頼むから上がった分のお金は12月中に振り込んでくれ!』と頼んできた。なんとなく私は察した。『お前、給料ちゃんと上がった事を報告して、その金を持ち帰らないと、実家の家族へ面子が立たないんだろ?』と、直球で投げかけたら、彼は小さな声で『YESボス。。』と答えた。
今回、私が彼の家族の中に混じって『ファミリーファンクション』に参加する。一見、相当場違いな感じもするが、実はこれが最も彼がやりたい事なのだ。『家族行事の中に、彼の上司が来てくれた』ってことが、インド人にとってはステータスになり、彼の家族内での彼の立場も面子が保たれるってことなのだろうか。。(たぶん)。ただ、道中、『私の実家にまさかボスが来るなんて未だに信じられない』と、かなり興奮していたので、彼にとってかなりインパクトがある一発なんだなと思った。今回家庭訪問をさらにあたり、インドの実家に宿泊し、ガチの文化を見てみたいという私のバックパッカー魂もあるが、私が行くことにより、私が彼の家族と会い、そして、彼の家族も私を理解し、より彼の家族が、彼を応援してくれるようになれば、彼が弊社でもっと仕事しやすくなり、そして、私も彼のバックグラウンドを理解した上で、もっとちゃんと接することが出来る気がした。
つくづく思う。中国のフィアンセと接し、インドのスタッフと接していると、そこに垣間見える昔の日本。家族を大事にして、そういう家族や親戚のイベントに重きをおく、『コミュニティ』を大事にする文化。私が見たこともなかったような、そこにあっただろう昔の日本を、今ここで体感するような気がする。
一月は家庭訪問の月
これが終わって、次は、アーメダバードで別な部下の弟の結婚式に出る。その後、メンバーの家でランチに誘われている。絶対にこういうのはやった方が良さそうだ。日本ではなかなか出来ない、インドの文化を吸収する大チャンス。誘われたら、そのスタッフの家には遠慮なく『家庭訪問』させてもらいます。頼むから、コロナよ。水を刺さないでくれ。なんか、非常に怪しい雰囲気が出てきているのも事実。。