アディティア君と散歩
12月末、アーメダバードに出張に行った。その時の話。
アーメダバード出張は結構ハードなもので、ホテルに戻ってくるのは9時過ぎがほぼ毎日になる感じだった。しかし、今回の出張から実行してみたのは、「部下のアディティア君との2人の散歩」だ。インド人は話し好きで、自分の意見をまず相手に聞いてもらいたい。。。というか、察してほしい、わかってほしいと、基本的に思っている。世界会議の場では、「インド人を黙らせるのと、日本人を喋らせるのが最も難しい」なんて言われている。
気晴らしを含め、仕事をしたあとに、二人でホテルを抜け出し、その辺の道端のチャイ屋でチャイを飲みつつ散歩をした。ちなみに、アディティア君は、私より3歳年下の部下で、弊社の中でもキーパーソンの一人。彼の担当は、インフラ関係ビジネス、特にアダニグループとのビジネスに注力しているめちゃくちゃ賢いナイスガイだ。私自身も、何らかの判断をする際には、彼も意見を求めたりもする最も信頼できるインド人の一人だ。私もこういう「ちょっと仕事を脱線した付き合い」ってのがホントに好きで、最初は僕から誘っていたものの、2日目ぐらいから、アディティア君も一緒に行きたげな雰囲気を醸し出すようになり、結果、毎晩二人で散歩した。「一緒に散歩に行きたいです」とは言わず、「私さんがインドで問題起こさないように見張ってます」と言ってついてくるあたりが、これまた可愛げがあるってもんだ。そこで、多くの話の割合を占めるのは、「日本人とインド人の考え方の違い」だ。その違いを肌感覚で感じてはいたものの、それが明確に紹介してある本に出会った。それがこの本。そこに書いてる本の内容を、散歩中にアディティア君にもシェアした。そして二人で爆笑しあった内容の一つをここではシェアしておこう。
プラン型(日本)とやりながら型(インド)
インドには「ジュガード」という言葉が存在する。その意味は、「斬新な工夫による応急措置」、要は「色々試行錯誤してその場を即座に取り繕う」という考え方。日本人からしてみたら「いいかげん」に見えるのだが、インド人はそう思っていない。そもそもインドは、過去の歴史の中で、イギリスからの支配や、コロコロ変わる政府の政策の中で行きてきた背景を持つがゆえに、「先のことなんてわからない。今、完璧なプランを立ててもどうせ変わるから、はじめの段階でプランを立てても意味がない」と多くのインド人は考えている。どうせ変わるんだから問題が起きたとき、その場で柔軟に対応しようという考え方だ。
一方で日本人は、「まず先のプランをじっくり考えて、それが固まったら実行する」という考え方を根本的に持っている。その背景にあるのは、1960年代から始まった高度経済成長は、その考え方がベースとなって日本は成長したため、2022年になった今でも、その考え方が根強く残っている。なので、私とアディティアは、日本側の考え方と、インド側の真逆の考え方の板挟みになることが多々ある。例えば、何らかの事業を行う際に、日本側は、まず情報を掴んでこいとインドに依頼する。ただ、まだその時にはインド側はプランが固まっていない。なので、日本は動けない。ただ、何らかの刺激、例えば国の政策案や社長の指示が入った瞬間に、一気に柔軟に動き出す。すると、プランを立てていない日本側は一瞬にして置いていかれる。基本的に、日本人は、山頂への行き方が分かってから最短ルートで登ろうとするのに対し、インド人は山頂がどこにあるかわからないけど登りだすような感覚だ。
一見すると、「これだからインドは成長が遅いんだ」と日本人は思うかもしれない。ただ、この本にも書いてあるのだが、日本が経済成長をした世界と、今の世界は全く違い、世界の動きは高速化が進んでいる。なので、実は、これからの社会では、山頂がどこにあるかわからない状況が、そもそも当たり前の世界になりつつあると言われている。そして、このインド人的な「ジュガード」の精神は、実は、これからの社会では必要不可欠な武器とされている。IBM、Microsoft、GoogleのCEOを始め、アメリカシリコンバレーのIT産業を支えるCEOのインド系が増えてきているのは、変化が激しい世界で柔軟に判断を下せる、つまり「ジュガード」の精神をもつからであると本書では語られている。
この話をアディティアと会話したら、彼はめちゃくちゃ爆笑していた。「そういうことです私さん!笑 私もその本読みたいです!」と。ただ、私は付け加えた、「だから、インドを理解する私と、日本を理解するアディティア、この2人がインドと日本をつなぐためには必要なんだよ」と。そしたら、彼はその通りだと納得していた。ちなみに、私が12月の出張で、アダニグループと商談をしていた時に、とあるトラブルに遭遇した。その時に、日本人の私が、「これは・・・・ジュガードで行くしか無いな・・・」とアダニの担当者に喋ったら、彼は、「なんでそんなこと知ってるんですか」と笑ってくれて、その結果、その場をなんとかするしか無いということで会話がまとまった。
ここで紹介したのは、インドと日本の根本的な違いを表す一例。こんな感じで、世界各地には文化的要素を背景として、全く考え方が違うのは当たり前で、それを理解せず、日本の考え方だけを押し付けようとしても、全く響かない。なので、まずは相手の文化を知るってことが最も大事である。
そんなことが書いてある名作を更に2冊紹介する。角度が違えど、言いたい本筋は同じ。「日本」と「世界」はそもそも違うってことを理解しろ、日本のやり方でいっても根本的に理解されないぞという内容だ。是非読んでみてほしい。